Wiz:では、女性起業家・起業家に向けて定期的にセミナー(Wiz:Lab)を開催しています。
今回は、これまでセミナーにご登壇いただいた 株式会社デルタスタジオ 代表取締役 若林辰也様へ直接取材!三重県と女性起業家、そしてWiz:についてお話を伺いました。

起業と三重~女性は若年層の人口流出が顕著~

私の個人的な感覚でいうと、三重県は全体的に他の行政と比較して各種サポートが手厚い印象です。制度が整っていて、段階に応じて「こうだよ」とサポートしてくれます。起業しやすい環境といえるのではないでしょうか。

「起業したのはいいけれど今どの辺に立っているのかわからない」

「次に何をしたらいいのかわからない」

そんなとき、商工会議所がしっかりしていて規模感もあるので安心でしょう。

起業前、起業したての方向けのセミナーや勉強会も開催されています。商工会議所だけでなく、銀行などでも開催されていますね。四日市では女性向けに特化した起業塾が開催されていて、まさに手厚い!

デルタスタジオでは結婚支援も手がけていることから、男性・女性の人口変動にも注目しています。実は三重県は男性よりも女性のほうが社会減なんです(※注釈)。一次産業において「長男が家業を継ぐ」といった背景が関係しているかしれませんが、特に18~25歳あたりの女性の流出数が顕著です。さらに、一度県外へ出ていくと帰ってくることは少なく、人口減少に歯止めがききません。

現段階では経営を維持されている企業でも、取り扱うサービスや商品・事業を利活用していただける方が地元からどんどん減少しているのは事実です。その状況下で、どういう風に今後の企業存続を考えるのかが重要。

「女性がいかに三重に留まりやすいか、留まっていただけるか、来ていただけるか」に目を向けることが重要課題なのではないでしょうか。

(※注釈)社会減:人口流入数・流出数の差がマイナスであること。一方で出生数・死亡数の差がマイナスの場合を自然減という。

「多種多様な職業・職種」を選べる環境づくりを

女性の社会減に歯止めをかけるには、女性を中心とするマーケット(商圏)が生まれる状況をつくらないといけないと考えています。規模は小さくてもいい。「どこかに勤める」という選択肢以外の何かを用意できるよう、地元企業含め皆で考えていく必要があります。

行政が「皆にとっていいものを70点くらいで提供する」なら、それは「十分」だけれど「満足」な状況にまで至ってないかもしれません。現在の女性人口の変動状況からみると、県民が満足できる取り組みが必要なのではと感じます。

行政任せでは厳しい現状。男性も同様ですが、特に女性が流出していかない「多様な職種・職業」を選択できる余地が必要でしょう。そして、極力リスクを排除した形で起業にチャレンジできる環境の整備も欠かせません。

今の中・高・大学生くらいの子たちに、「生まれ育った三重県にも多様な働き方があって、失敗しても再出発できるような環境があるんだよ」といえる状況をつくることが大切です。私見を広げるためにさまざまな場所へ行ってみるのはいいことですが、「最終的に三重で暮らしていくのはそう悪くない」と思ってもらいたいですね。

「行政がやること」と考える企業もあるでしょうが、地元企業こそ真剣に目を向けるべき大きな社会問題であり、解決するための事業が必要です。「何となくそれなりに妥協して働く」「そんなにやりたくないけれど無理して働く」のではなく、「自分がやりたいことで身銭も残る」、そんな働き方・起業はできると思っています。

民間企業が主体となって女性活躍・チャレンジを応援すべき!

ネット環境の整備に伴い、企業規模や働く場所などは仕事選びの大きな障壁にならなくなるのではないでしょうか。ネット環境があれば在宅での業務対応も可能になり、大きな事務所もいらなくなります。書類関係で必要なオフィス住所があれば十分でしょう。となれば、子育てしながら働くにはむしろ追い風の状況といえます。

今後、女性の就労に関しても「働き方と得られる収入のバランスをとる」という妥協感がなくなっていくのではないでしょうか。

これはすごくいいことですが、そのイニシアチブは地元の民間企業がとっていくべきだと思います。地元企業による「女性が活躍できる場所」の創出。地元企業が旗振り役となって環境を整備していかないと、気運は醸成できないのではないでしょうか。

地元の中小・零細企業こそ、女性を大切にし、女性の活躍・チャレンジを応援していかないと、と個人的に思っています。

女性の「柔軟性と判断力」は大きな強み!

新型コロナウイルスの影響もあり、一時期は多くの企業で人手不足だった状況が今やその逆。しかし交渉事など、パソコン上ですべて完結できない場面では、最終的に「人」が窓口になるでしょう。

そんなとき、デジタルへの柔軟性や物腰の柔らかさでは、男性よりも女性のほうが優れていると私は思っています。デルタスタジオでも社員はほぼ女性で、物腰も柔らかい方ばかり。相談や交渉など、全体的に女性のほうができる仕事の領域も広く、男性は力仕事中心のことが多いのですが、それで構わないと私は思っています。

「女性に仕事をとられる、とる」という考えではなく「任せる」という感覚です。

企業内でデジタル化を考えた場合、男性だけではうまくいかないのではないでしょうか。デジタル化は初期からうまく進むことはなく、取捨選択が必要です。柔軟性や判断力など女性が持つ強みをベースにすることで、スムーズにデジタル化が進むのでは、とも思います。

男性社会の職場では、考え方を含め「硬直化」している印象を受けます。今はうまくいっている企業でも、20代、ミレニアム世代が社会に出るころには転覆してしまうかもしれません。「こうあるべきだ」という感覚でいくのは、非常にリスクが高いといえるでしょう。

性の役割分担を固定化する企業は伸びていかない

世間では未だ「男性が外に出て働き、女性は家で…」という固定的な性の役割分担が変わらない状況だと感じています。家庭から一歩外に出て経済的な環境になれば、そんな風にはいきません。逆に、そんな感覚に留まっている企業はうまく伸びていかないだろうと思います。

デルタスタジオは男性一人ではじめた会社です。当時は一人で死ぬほど頑張っても、年1千万くらいの収益でした。それが9年目を迎えて、今は約1億円までに。年々携わる事業が増えるとともに人も増え、今や女性中心の職場です。

女性社員が自ら考えて行動して判断し、私がそれをバックアップする側になっています。今後この状況は変わらないでしょうし、デルタスタジオもまだ完成形ではありません。追々、女性の後継者に任せる青写真を描いています。

「自分の頭」で考えて「自分が明かりになる」子育てを

デルタスタジオといえば子育て事業です。私自身も2人の子どもを持つ父親ですが、「自分の頭で考えられる子ども」をつくっていかなければ、と考えています。

苦難に陥ったとき、自分で考え判断できないと、結局は「誰か明かりをともしてくれる人」についていく、流されてしまうわけです。人間らしい働き方を追求していくのであれば、自分でたいまつに明かりをつけ、自灯明(じとうみょう:自らをともしびとする・自らをよりどころとする)の考えで「私が明かりです」とつき進んでいくこと。子どもたちにこうした意識を持たせることが大切なのではないでしょうか。

例えば「これってなぜなんだろう?」と思ったとき、ついついスマホなどで検索してしまう人。検索結果は、誰かがすでにともした明かりなんですよね。結局は二番煎じ、三番煎じ。自分で考えて「こう思う」と表現すれば、「自分が明かりになれる」わけです。

検索した結果と、自らが出した答え。

その違いを子どもたちに教えていかないといけません。私も普段、わが子に「なんで?」「なんで?」としつこく聞くようにしています。

今は便利な世の中です。けれど、ビジネスで「これはどういうこと?」と聞かれたら、目の前でスマホを確認できませんよね?そこで出てくる回答が「一旦会社に持ち帰ります」。難題なら仕方がありませんが、事前に問答を想定して考えていたらその場で堂々と対応できたと思います。

せっかくなら、自分が明かりになるためのトレーニングをすべきです。そのために必要なのが「自分が自分の結論にたどり着くこと」。自分が出した答えなら、間違っていても許されると思います。許されないとすれば、人の後ろについていって間違えたときです。ビジネスでも子育てでも、「自分の頭で考える」ことを心がけていきたいですね。

(取材・構成) 杉本友美(ライティングファーム紡)
桑名市出身&在住。バックオフィスでの社会人経験ののち、産休・育休を経てライター業をスタート。
働き方関連や三重などを中心としたライティングに携わる。
HP:https://www.wf-t.jp/  Instagram:@writingfirm.tsumugi