三重県の女性起業家コミュニティwiz:主催の座談会、第二弾が8月19日にオンラインにて開催されました。前回に引き続きwiz:実行委員の高原祥子さんをモデレーター、伊藤和香子さんをサポーターに加え、三重県いなべ市の株式会社フジ技研取締役常務、鏡谷有紀さんにインタビュー!
フジ技研での営業・事務・人事といったキャリアの変遷、先日オープンした「FUJIHUB(フジハブ)」について、そして今後の展望を含めじっくりとお話を伺います。
<座談会参加者プロフィール>
鏡谷有紀(かがみたに ゆき)
株式会社フジ技研 取締役常務、株式会社フジ技研カゴシマ 代表取締役社長。「FAST IS GOOD」をコーポレートスローガンに掲げ、自動車部品の試作品開発や金属加工などを主業とする。2021年5月に「いっちゃんたまご」を事業承継し、2022年7月にはモノづくり体験施設やカフェを併設する「FUJIHUB(フジハブ)」をオープン。
伊藤和歌子(いとう わかこ)
株式会社アンリ代表。「頑張っている女性の心に元気を届ける」をミッションに、津市・鈴鹿市で「エステ&ネイルサロンアンリ」を運営。2000年9月の開業から22年目を迎える。春にはアンリ鈴鹿店1階にフリーレンタルスペース、レンタルサロン、ばんじょう整体が入る「自由空間anriplus」をオープン。
高原祥子(たかはら しょうこ)
株式会社サンプラス/高原社会保険労務士事務所。大学卒業後、ベネッセコーポレーションにて教育事業に携わる。3人目の子どもの出産時に退職したのち、社会保険労務士業をスタート。津市をはじめ三重県内での創業支援および各種講演の講師として活動中。また「テラコヤWILL」では子どもの教育と向き合う。
――――――――――――――――前編――――――――――――――――
現場から営業、人事…これまでのキャリアを振り返って
高原祥子(以下、高原):
Wiz主催の座談会、第二弾です。今回は株式会社フジ技研の鏡谷有紀さんにお話を伺います。
鏡谷有紀(以下、鏡谷):
ありがとうございます。フジ技研は自動車の開発支援会社です。2022年7月にオープンした「FUJIHUB(フジハブ)」は、「ものづくりは楽しい」ことを幅広い年代の方々に知ってもらうためにつくりました。子ども向けのものづくり体験やカフェをはじめ、いろいろな新しい事業を始めるべく今まさに取り組んでいます。
高原:
先日オープンしたばかりということで大変お忙しかったと思います。お忙しいなか、本日はありがとうございます。
まずはこれまで、フジ技研でどのようなお仕事をされてきたのでしょう?
鏡谷:
フジ技研は父が創業し、私は30年程前から働きはじめました。当時は元々溶接屋のような、従業員6人程の小さな会社で。当初は私も現場で溶接をしたりプレスを打ったりしていたんですよ!そんな中、営業職不足から営業に携わることになりました。
当時の自動車業界では、女性が営業に出ること自体ありえない時代。20歳の私が営業に出向いても、お客様からは「何しに来た?」と思われる状況でした。けれど当時の私は「使えるものは何でも使え!」と思って、自ら「私は社長の娘です!」と名乗り営業に回っていました。
営業職で働く中で出産を経て事務職に異動。その後、会社の事業拡大を図るタイミングで人事職の必要性が高まり人事を担うことになりました。
ちょうどその頃に働き方改革やワークライフバランスの話を聞き、残業の削減や女性活躍を推進するため働き方の見直しに取り組みました。約10年前に鹿児島の工場が不安定な状態に陥ったことで鹿児島工場にも関わることになり、現在は本社の人事と鹿児島工場の社長を務めています。
その中で、2・3年ほど前から構想を練り、フジハブのオープンに至るという状況です。
周りのサポートで子育てと仕事を両立
高原:
まず現場のお仕事をされて、次は営業…!飛び込み営業ですか?
鏡谷:
決まったお客さまに対して自社の技術を売る仕事で、逆に言えば商品はありません。飛び込みはほぼない一方で、仕事を獲得したいときにはホンダさんなど自動車メーカーに出向いていました。
高原:
営業職としてガンガン働き、残業も当たり前の環境でお子さんも出産されて。実際に子育てと仕事はどのようにされていたのでしょう?
鏡谷:
子どもは現在23歳と24歳ですが、子どもが小さい頃だけ主人の実家で同居していたんです。朝は主人が子どもを保育園に送って行き、帰りは私が迎えに行って、祖父母に預けてまた会社に戻るという生活でしたね。
子どもを出産する前から預け先の保育園に申し込んであって、当時最短の日から保育園に預けました。今だと生後57日目からですね。近所には当時0歳児保育の保育園がなく、片道1時間かけて送迎していました。
今思えば20数年前から自社にはテレワークがあり、自宅にパソコンを持ち込んで働ける環境ができていたんです。子育ては主人がサポートしてくれて、鹿児島に行くようになってからの約10年は、主人が家庭のこともサポートしてくれていました。
一人で抱え込まず周りに「助けて」と言っていい
高原:
皆さんいろいろなケースがあるでしょうが、女性が1人で仕事も子育ても家事も全部やろうと思うととても厳しいと思います。そんな中で周りの人に、ちゃんと「助けて」と言えるのは大事なことですよね。
鏡谷:
私もたくさんの人に助けてもらいました。子育てがきちんとできていたかどうかわかりませんが、おかげさまでしっかり自立してくれています。息子と娘は、私と主人が出張に出かける際、2人でお留守番してくれていましたね。
その当時は「うちのお母さん大丈夫かな?」と思っていたようです。今は息子も同じ業界に入り、跡継ぎを視野に現在は修行に出ています。大学生時代には、大学に通いながら自宅の作業を手伝ってくれていました。
娘も高校生の頃から、仕事が忙しいときには手伝いに来てくれていましたね。今は保育士として働く中、スタッフがいないとなると、平日の仕事帰りや土日にもカフェに手伝いに来てくれています。できなさすぎる母を見ているから「何とかしないと」と言ってくれていますね(笑)。
伊藤:
有紀さんの話を聞いて、「この人だからできるんだ」と終わらせないことが大事だと思います。みんな生まれ持った特技やミッションが違うわけで、やれることがきっとあるはず。その中で、例えば有紀さんの「20歳で営業に行く」という行動力。そのときに仕事を取ってきたかどうかに関わらず、やってきたことがきちんと培われているので、まずその行動力が必要だなと思いました。
鏡谷:
皆さんから「すごいね」と言っていただくものの、実は子どもたちからは「ポンコツ」と言われ、アシスタントからは毎日「なんでこれができないの?」と言われています(笑)。でも、周りが本当に優秀で。私の中では、自分が絶対できないことはやらない、誰かにやってもらったらいいかなと思っています。
伊藤:
「私はできないからダメ」と自己肯定感を下げるのではなく、できないことはできないと。得意なことをやろうという潔さも成功の秘訣ですよね。
自分だけではできなくても、皆でやればそれでいい
鏡谷:
やることはたくさんあるので、それを全て自分でやろうと思ったら絶対無理。自分でやろうと思うと、それこそ1つしかできません。1つでは達成できない、一度にたくさんやるからこそ意味があると私は思うんです。
高原:
いろんなことをやりたいと思う原動力や、「次はこれかな」といった思いはどこから湧いてきますか?
鏡谷:
人から言われることです。自分で何かがしたいとか欲しいものとか、実はあまりなくて。人が「これやってほしいな」「こういうのがあったらいいな」というのを聞いて動くことが好きなんです。
例えば今、自社の社員の子連れ出勤を実施しています。私も子どもが小さい頃、会社に子どもを連れてきていましたが、だからこそ社員にはそんなことをさせたくない、休ませてあげたいと思って。なので子連れ出勤なんて全く考えていませんでしたが、社員から要望の声が上がったんです。
高原:
普段から有紀さんの周りにいるいろんな人の声を聞いて、実践していらっしゃるんですね。
鏡谷:
私自身、将来を見越した考えを持っておらず…。実は弊社、10年に1回、四日市、菰野、いなべと引っ越しをしていて、会社自体も計画性がないんです(笑)。ただ、そのときにそういう場所とそういう人が現れて、すぐそれに乗っかるんですね。
計画性を持って先を考え過ぎると逆に動けなくなるので。面白そうなことがあったり、やってほしいという人がいたりしたら、とりあえずやってみます。
思わぬところで「いっちゃんたまご」を事業承継!
高原:
先ほど和歌子さんがおっしゃった「行動力」ですね。「いっちゃんたまご」もその一つでしょうか。
鏡谷:
「いっちゃんたまご」はいなべ市にある唯一の養鶏場で、2021年5月に事業承継しました。最初の構想にあったのがフジハブのモノづくりステーションで、子どもたちにモノづくりを教えたいというところから始まりました。
モノづくり体験施設に人が集まるには…というところからカフェの話になって。カフェなら人が集まるし、そこからモノづくりを知ってもらおうという考えだったんです。
実は5年ほど前から「いっちゃんたまご」を事業承継しないかと度々相談されていて、ずっと断っていたんです。けれど昨年改めて声をかけられたときは何となく現実的な話に聞こえて、とりあえず1回行ってみようということになりました。
その当日、何とオーナーさんが病院に行っていて…!いなべで1軒しかない養鶏場、オーナーさんは体調が悪い、いつ廃業するか…。そこで「私やります、買います」って言ってしまったんですね。でも実はそれが定期健診だったと後で知り、高い壺を買ってしまったような、笑い話なんですけど(笑)。
事業承継がカフェとうまく繋がって…
高原:
高い壺ですね…(笑)!その後の「いっちゃんたまご」はどうですか?
鏡谷:
衛生関係や畜産関係を含め、農業委員会の方々など周りに助けられて、何とか形になったかなという状態です。卵の値上げなども行い、売上高も1.3倍ほどアップしました。
ただ、弊社の場合はカフェで卵や鶏肉を使っているので、総合的になんとかいけるかという想定数字です。カフェの経営をするなら「いっちゃんたまご」を事業継承してもプラスに持っていけるかもしれませんが、養鶏場だけなら無理だったと思います。
高原:
勢いで買ってしまったものの、その前段階としてフジハブさんの構想があって、そして結果的に良い効果が出ているんですね。
鏡谷:
牛乳や油など多少のものを除き、カフェの仕入れはほとんどありません。卵と親鳥を加工した鶏肉、それに加えて2021年5月につくったハウスで収穫したトマト、他にマイクロリーフも作っているので、70%ぐらいが自給自足状態なんです。
高原:
どんな商品がラインナップされているのでしょう?
鏡谷:メインはコッペパンです。私たちが工場で働いているということもあり、「仕事をしながらでも片手で食べられる」のがコンセプトになっています。
この他にはシフォンケーキ、あとプリンはクレープの中に入れてあるので片手で食べられるんですよ。卵かけご飯や、鶏肉を使った料理としてカレーやタコライスもあります。
(構成) 杉本友美(ライティングファーム紡)
桑名市出身&在住。バックオフィスでの社会人経験ののち、ライターに転身。
働き方関連や三重などを中心としたライティングに携わる。
HP:https://www.wf-t.jp/ Instagram:@writingfirm.tsumugi