イオンモール四日市北店「55カフェ」の代表であり、NPO法人三重はぐくみサポートの理事長も務める山田知美さん。カフェ運営のロールモデルとして三重県内をはじめ登壇実績も数多く、「四日市子ども食堂55」や「はぐくみエイド(フードパントリー)」など精力的に活動中していらっしゃいます。

今回は起業の背景からひとり親支援、女性の起業について伺いました。後編では、四日市子ども食堂55の設立からはぐくみサポートでの活動、女性の起業についてまとめています。

 

「四日市子ども食堂55」は発案から約1週間でメディアに登場

 

「四日市子ども食堂55」にて

 

―2016年に任意団体「四日市子ども食堂55」を立ち上げ、四日市市初の子ども食堂をスタートされました。

当時、東京などでは既に子ども食堂が話題になっていました。私はシングルマザーであり、カフェも運営しています。長男は留守番し、ひとりで食事をすることが多かったんです。「うちの子みたいな子どもたちが皆で食べれば楽しいじゃん!」という、安易な気持ちから始めました。

 

ー地域初という大きなチャレンジ、勇気がいったのでは?

私は物事を始めるにあたり、二つのタイプがあると思っています。前者はよく考えて計画してから始める人で、後者は始めてから考える人。私はまさしく後者ですね。

あらゆる状況が変化する中、事業も成長していきます。当初のコンセプト通りにはいかず、やりながら、考えながら変えながら、柔軟性を持って取り組むべきだと思っています。

実は子ども食堂を始めようと思ってから、大体1カ月ぐらいで実際に始めちゃったんです。プレスリリースを書いて、朝日・毎日・中日などの新聞にも掲載され、NHKも来てくださいました。

 

ー想いを行動に移すのが速い!

これは既に55カフェという場があって、最小限の準備で始められたことも大きいですね。調理用具も揃っていて食べる場所もあり、事前準備は人件費を払えば55スタッフでやりくりすることもできます。

スタート時から2年間ほどは持ち出しがあったものの、少しずつ地域の企業や一般の方々から支援の輪が広がっていきました。今では店舗内に設置した募金箱に毎月2万円程も集まり、また食材など現物支援もいただいています。

現在(2021年6月)は、1ヶ月のうち第2水曜日に子ども食堂(事前告知なし、ひとり親家庭支援)、第4水曜日にフードパントリーを開催。今では毎回100人以上の方がいらっしゃいます。

 

―「届けたい人に届かない」と悩んだこともあったとか。それはどういう背景があったのでしょう?

子どもは「子ども食堂」へ来たいと思っても、実際に連れて来るのは保護者です。まず保護者が「来たい」と思えるように「お母さんのテンションが上がる料理を」と考えました。なので、参加者の方から「これどうやって作るの?」って聞かれたら本当に嬉しい。その家庭にひとつレパートリーが増えますし、簡単で美味しいものなら何度も作ってもらえます。

その一方で、子ども食堂はハードルが高いのかなとも感じていました。必要な家庭ほど、子ども食堂に継続して来なくなるのが実情なんです。例えば食に関心がない親や団体行動したくない親、人と関わりたくない親など、いろんなパターンが考えられます。

私達の目的は、孤食の子どもを減らすこと、ひとり親の支援ですが、その入り口が子ども食堂。「子ども食堂イコール子どもの貧困支援」だとイメージしている人も多いですが、実際月1、2回ごはんが無料であったとして、根本的に貧困から抜け出せるわけではありません。

子ども食堂はあくまでも助けが必要な家族とつながるための入り口であり、大事なのはその家族と関係を継続することです。今は何とか大丈夫でも、1年後は何があるかわからない。そこで私たちが並走していて、相談できる関係性を築けていればトラブル回避につながります。

 

はぐくみサポートとして「はぐくみエイド」もスタート

 

はぐくみサポート「フードパントリー」

 

―2016年に子ども食堂55を立ち上げ、2017年2月にはNPO法人三重はぐくみサポートを設立。はぐくみサポートの活動内容について教えてください。

活動内容は、子どもの貧困支援、ひとり親への支援を中心に、女性の開業相談、各種セミナー登壇など。主だった活動としては、現在は四日市子ども食堂55、はぐくみエイドです。

イオンモール四日市北店内でハグマルシェの運営や体験イベント、バーベキューや川遊び、万古焼イベントなども開催していましたが、コロナの影響もあり休止しています。

 

―はぐくみエイドはひとり親家庭への応援物資、フードパントリーとのこと。昨年7月からスタートしたそうですね。

昨年5月の緊急事態宣言下、子ども食堂としてお弁当の提供をはじめた際、SNSで積極的に発信していました。そこで一般の方や企業など支援者が増えていったんです。大変な時だからこそ、という共助の精神が高まっていることを実感しました。

そんな頃、ある農家さんが新米を300キロもくださって。お弁当だけで使い切れる量ではなく、必要な人に届けようとフードパントリーを始めました。そこで参加者さんから聞こえてきたのは「お米が切れて3日目だったから助かる」「給料日前だからすごく助かる」といった生の声です。

 

ーコロナによって支援の入り口が増えたんですね。

はぐくみサポート「フードパントリー」

 

コロナ禍に見舞われたのは、「つながる入り口が子ども食堂だけでは難しい」と感じていた頃でした。そんな状況でお弁当を作ったところ、今まで子ども食堂に来なかった人たちがやって来るようになりました。そしてフードパントリーには「お米は欲しい」という人が訪れるようになりました。

コロナによって、食堂と弁当とパントリー、入り口が3つになったわけです。現在はぐくみエイドの利用者は100人位、約35~40世帯。子ども食堂とほぼ同じですが、約1年前の子ども食堂利用者は大体40~50人位でした。利用者数が増加した背景には、支援の種類が増えたことも関係していると思います。

同時に、コロナの影響で世帯所得が低下した家庭の増加が浮き彫りになったともいえます。2020年のGW、緊急事態宣言の時も大変でしたが、年末あたりからその影響が色濃くなり、今はさらに深刻さを増しています。

ひとり親家庭は核家族の人が多く、学校が休校になれば仕事を休まざるを得ません。預け先がないので、仕事を休めば自ずと収入が減ります。中には雇用を切られたり、時間を減らされたり、職場がなくなったりという方々も増えているのが現状です。

 

多くの開業相談から「起業」のニーズを感じる

 

親子で一緒に「四日市子ども食堂55」

 

―起業相談を受けることも多いと伺いました。

ホームページ検索や知り合いの紹介などで相談に来られる方が多いです。年代は20~50代くらい。飲食関係以外も含め、起業のニーズが高まっていることを感じます。

数ある相談のなかで共通するのは「誰かに相談すること」の重要性です。自分だけで考えていると、いろんな想いから「目的」と「手段」を履き違えてしまう。まず「何が目的か」を明確にすることが大切です。

 

ー日中のみ平日数日のみ、自宅でカフェを始めたい、そんなお話も耳にします。

コロナ禍によって、これまでの常識が常識ではなくなりました。昔なら24時間営業が当たり前だった業種・業界がそうではなくなったとき、「いけるんじゃない?」と社会全体が気づいたようにも思います。女性が起業する際、短時間営業でもOKな時代になったとも言えるでしょう。

あと、立地も大事ですが商品力やプロモーション、発信方法も重要です。これからはオンラインによる発信力が大きなカギを握ります。Webで情報を受け取る人がターゲットなら、例えば売り切り閉店、15時閉店でも成功する可能性はあると思います。

 

―カフェ起業したい方へ向けて、まず考えておきたいことや、まずやっておくと良いことなどありますか?

まず「何がやりたいのか」を、自分の中で明確にしておくことが大事です。売上で言えば「月商10万」なのか、それとも「月商100万」「月商300万」がいいのか。最終着地点をどこに定めたいのかによって内容も変わってきます。

月商10万の物件に300万を求めても無理ですし、月商300万を目指すならその売上を出せる店舗を作らないといけません。例えば自宅の一角でカフェをする場合、家賃がないメリットがあるものの、多くの売上は見込めません。望む利益が5万くらいあればいいという方なら、それもアリだと思います。

あとはオンリーワンになるためのものを。数あるカフェの中から選んでもらう理由がなければ、起業しても継続は困難です。飲食店は、食品衛生責任者の資格があればで未経験でも始められます。しかし、やはりさまざまな経験を積むことでオプションが増えるのではないでしょうか。

 

―「カフェをやりたい!始めたい!」人に一言お願いします。

大変なこともたくさんありますが、「好き」を仕事にするのってすごく楽しいこと。

私はカフェを始めてから「仕事したくないな」と思った朝は一度もないんですね。

「好き」を仕事にするために、何が必要かしっかり見極めて進んでいけたら良いなと思います。

そしてたくさんのファンを作り、仲間を増やすことです。

そのためには、どんどん表に出ていって、たくさんの人と出会って。

人は人によって磨かれ、成長していくように思います。

 

(取材・構成) 杉本友美(ライティングファーム紡)
桑名市出身&在住。バックオフィスでの社会人経験ののち、ライターに転身。
働き方関連や三重などを中心としたライティングに携わる。
HP:https://www.wf-t.jp/  Instagram:@writingfirm.tsumugi