イオンモール四日市北店「55カフェ」の代表であり、NPO法人三重はぐくみサポートの理事長も務める山田知美さん。カフェ運営のロールモデルとして三重県内をはじめ登壇実績も数多く、「四日市子ども食堂55」や「はぐくみエイド(フードパントリー)」など精力的に活動中していらっしゃいます。

今回は起業の背景からひとり親支援、女性の起業についてお伺いしました。前編では起業の背景、55カフェ運営とアフターコロナの奮闘についてまとめています。

 

起業11年目…食を通じて働く喜びを実感

 

「四日市子ども食堂55」でのワンシーン

 

ー起業のきっかけを教えてください。

もともと企業勤めで、飲食店の立ち上げや運営に関わっていました。出産で退職した後に働こうかと思い「年間103万を60歳まで…」と考えていたら、生涯年収が計算できる人生ってなんてつまらないだろうと思ったんです。

ただ、当時の最優先度は子育てであり家事であって。それ以外の優先度は低くて、子育てをしている以上は選択肢がないのが当たり前かなという認識でした。

そんなとき、55カフェのオーナーになるチャンスがあり「これだ!」と迷うことなく起業の道を選びました。実は、はじめから起業を目指していたわけではないんです。

 

ー山田さんにとって「料理」とは?

単純に料理が好きですし、私にとって料理は誰かのためにするものなんです。人生初の料理は小学校3年の頃。母と姉が買い物に出かけて夕方に帰る前、内緒で夕食を作りました。当時は圧力鍋でご飯を炊いていて、今となってはよくやったなと思います笑。

ただ母に喜んでもらいたい一心で、キャベツ炒めとご飯と味噌汁を作りました。自分で作った料理を食べて喜んでもらいたい、その気持ちが今も根底にあるんだと思います。

出産してから憧れの専業主婦時代、ママ友を家に招いて料理を振舞うこともありました。そこで、自分の技術を褒められて「あれ、これってそんなに褒められることなのかな?」と感じました。例えば人参の丸ごと1本千切り。私がものすごいスピードで切っていたら、料理よりも「それ何??」と、友達が目を真ん丸にしていたんです。

 

―自分では気づいていなかった「強み」をママ友が教えてくれたんですね。

自分ではごくごく普通に、このほうが早いと思ってやっていました。もともと面倒くさがりなので、料理に関しても「いかに早く終わらすか」を考えるのが楽しいんです。

この強みは55カフェのオペレーションにも役立っています。例えばナポリタンを提供するための導線を考えたときに、今日と明日でするべきことが把握できていればスムーズに進みます。料理自体は科学、盛り付けは工作ではないかと思っています。

 

55カフェ運営の戦略とアフターコロナの奮闘

 

イオンモール四日市北店 レンガ棟前「55カフェ」

 

ー55カフェのコンセプトを教えてください。

「居心地のいい空間を提供する」です。例えばコーヒーが美味しい、料理が美味しい。それだけで人を集めるのは難しいのかなと思っています。今はコンビニのコーヒーでも十分美味しいですし。そこで差別化を図るなら「55カフェでコーヒーが飲みたい」という、この空間自体を価値あるものにしたいなと。

55カフェの主なターゲット層は50代、60代、70代のプラチナ世代で、ターゲット層が好む空間づくりを心がけています。例えばお子様ランチをメニューに入れない、若年層向けの雑誌は置かないとか。家庭画報など重い雑誌が置いています。買うのも処分するのも大変ですから、55カフェに来て読んでいただこうと考えています。

ちなみに週刊誌も置いていません。週刊誌を読む、好むタイプの人はターゲット層ではないからです。新聞は日経・中経・中日・中日スポーツ・日経産業の5誌をとっていて、一番人気なのが日経産業新聞です。これほど新聞を置いているカフェはあまりないと思います。

 

―ターゲット層を明確にして、置くものまで戦略的に考えているんですね。アフターコロナはどんな取り組みを?

コロナ禍では空間の提供自体が難しいので、新たなターゲット層を増やす取り組みをはじめました。その一つが2021年1月から始めたスイーツです。6月から法改正によってテイクアウトが可能になります。例えばプリンのセット販売とか、スイーツのテイクアウトの需要を起こしたいですね。

あと、今回を期にSNSでの情報発信量、頻度を増やしていく予定です。Googleマイビジネスも多くの方に閲覧していただいている一方、なかなか情報発信できていません。先日Googleマイビジネスにケーキ画像を掲載したら、過去一番の閲覧数でした。今後は積極的な投稿を考えています。

 

―「居心地の良い空間の提供」から少しシフトするという。

そのためにも商品力アップが必要だと痛感しています。今は、集客してイートインのお客様を増やす社会情勢ではありません。商品力を高め、持って帰っていただける商品を増やす。お店に来ていただいたお客様に「美味しい」と思っていただき、家族の分もお持ち帰りいただける商品を作っていきたいですね。

 

―メニューに関して苦労したなと思うことはどんなことですか?

一番難しいのは料理の「見せ方」です。あとは他のメニューとのバランス。私がどんなにとんこつラーメンが得意だったとしても、55カフェでとんこつラーメンは空間に合わないですよね。それに加え、私は職人にはなりたくなくて、外にも出たいと思っています。料理以外の活動もしたいから。そうなると、55カフェとして統一感があり、かつ私以外の全スタッフが作れるメニューである必要があります。

例えば1、2人分だけならどれだけ丁寧で凝った料理が作れても、30人分頼まれて作れなければメニューには加えられません。安定したメニューを開発する方が優先度が高いですし、結果としてお客様への信用にもつながります。

 

…………後編へ続く。

 

(取材・構成) 杉本友美(ライティングファーム紡)
桑名市出身&在住。バックオフィスでの社会人経験ののち、ライターに転身。
働き方関連や三重などを中心としたライティングに携わる。
HP:https://www.wf-t.jp/  Instagram:@writingfirm.tsumugi